テント村通信アーカイブ



―「専守防衛」から「敵基地攻撃能力」へ―
  戦争屋の言説にだまされるな   (09年7月号掲載)




同盟のための戦争

 6月20日、衆議院の再可決で「海賊対処法」が成立した。すでにソマリア沖に展開している自衛艦の活動を一層強化し、外国船の防衛や、海賊船への射撃も認められた。その目的は、「各国と連携して海上の安全と秩序の維持を図る」とある。

 実際、狭いソマリア沖で「各国の連携」はお盛んだ。韓国海軍が北朝鮮民間船を救助し、中国海軍が台湾船を護衛する。メディアはそれを「美談」と持ち上げる。しかし、命を賭けて海賊行為にのぞむソマリアの人々は一切視界に入らない。実際、各国が軍艦を派遣した今年に入ってから、海賊行為はむしろ増加しているという。世界最貧の地域で行われている生存をかけた行為に軍事力で対応しようというのがどだいあり得ない話なのだ。

 海賊対処法によれば、自衛隊の「海賊対処」はあくまで「犯罪取締り」であり、「軍事活動」ではないらしい。だが、自衛艦が海賊との全面的な戦闘に及べば、誰の目から見ても「軍事活動」に映る。しかも米軍が米国人船長の救出のために死者を出す軍事作戦を展開して以降、海賊側の一部が報復攻撃にでているという報道もある。

 最貧国の人々のまずしい武器と、大国の巨大戦艦の戦いという「汚い戦争」に自衛隊が積極的に参加していくことになる。地球の裏側まで軍艦を派遣できる大国同士の「連携」のための戦争。グローバルな軍事同盟の活動は非常に醜悪なものだ。


増加する軍事費

 6月8日にストックホルム国際平和研究所が行った発表によれば、世界全体の軍事費は過去十年で四五%増加したという。軍事費増の原因は米国の対テロ戦争と、中国・インドなどの軍拡だ。米国は、2001年から始まったアフガニスタンとイラクでの対テロ戦争で、100兆円に迫る戦費を使った。国内社会の崩壊の大きな原因となった。

 中国は軍の近代化などを進め、10年間で軍事費を3倍に増やした。いまや世界二位の軍事大国だ。同7位の日本、同11位の韓国、それに核開発を進める北朝鮮をあわせて、東アジア地域は狭い地域に強大な軍事力が集中する状況となっている。


何のための軍拡競争?

 各国はお互いの「脅威」を強調しながら軍備拡張を進めている。自民党国防部会は六月三日、戦後初めて「敵基地攻撃能力の保有」を明確な方針とした。北朝鮮の核施設を先制攻撃するための、トマホークミサイルなどの保有が軸になっていると思われる。

 自衛隊はこれまで「専守防衛」の建前のもと、長距離攻撃兵器や航続距離の長い軍用機などの保有を行ってこなかった。保有をめざす場合であっても、「海外でのPKO活動のため」などといった理由をつけてきた。それが明確に「敵基地攻撃」を表にだした軍備増強を主張しはじめたことの意味は大きい。

 米国に対しては、最新鋭戦闘機F22の、日本への輸出を引き続き求めていくという。レーダーをかいくぐるステルス戦闘機で、一機二五〇億円。国会で問題になっている国立漫画資料館が一機で二つも建ってしまうというとんでもない買い物だ。これは不振のアメリカ軍需産業を救うという狙いもある。

 日本が海外攻撃能力を充実させれば、韓国や中国の軍拡も促すことになる。それがまた日本に跳ね返る。核武装論議は韓国でも盛んである。韓国では、八割を超える世論が核武装に賛成しているという調査もある。そこで想定する抑止力の相手は、北朝鮮だけでなく、中国であり日本を想起する人が多いという。

 本来はどの国も、軍拡レースに血道をあげる状況ではない。金融恐慌で生存を脅かされる人々が大量に生み出されたのは日本だけではない。韓国や中国でも、もちろん同様の事態は起きている。経済制裁と、政治の失敗・腐敗によって庶民の生活が限界に達している北朝鮮はさらに深刻だ。

 対外的な恐怖を煽り、民衆の不満を誘導する。人々の生存を恒常的に脅かす貧困や格差の問題から、目をそらさせる。為政者たちの思惑はもはや国境すら越える。「大不況の後にファシズムと戦争が来た」のが二〇世紀の教訓とすれば、二一世紀をグローバルファシズムと対テロ戦争の世紀にしてはならない。



テント村通信記事 メニューに戻る